雇用主と求職者のパワーバランスが変化してきています。

新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けた2020年は多数の従業員の解雇が相次ぎました。また、解雇にまではならなかったものの、一時帰休や減給で今後の雇用が維持されるのかと従業員が不安を感じる年でもありました。雇用の如何は雇用主に委ねられた部分が多く、また求職者側もパンデミックがどこまで拡大するのかを見通すことができず、転職を控える傾向にあったのが2020年です。

そして、年が変わって2021年。新型コロナ感染状況もある程度の落ち着きを見せ、求職者の動きが活発になっています。Great Resignationという言葉がビジネス誌や新聞など、至るところで使われていますように、自主的に退職する従業員が相次ぎ、アメリカの労働統計局によると2021年7月の退職者数は400万人を超えたそうです。昨年は従業員の解雇関連のニュースが中心でしたが、今年はうってかわって従業員不足で困っている雇用主のニュースで溢れています。報道だけではなく、実際にお客様とのお話の中でも2020年と2021年は雇用主と求職者の力関係が全く異なるものであることを肌で感じております。

また、今年2021年は転職を検討している方の割合が非常に高いという報道が多くなされています。個人的には7割、8割の転職希望者がいるという内容のニュースや記事を見聞きすることが多いですが、中には9割以上の方が転職意思を示しているという内容の記事も存在します。あまりにも高い数値ですので、その真偽が気になる方も多いと思います。そこで、弊社ではこの数値についての調査を実施しました。候補者に対して行った質問は非常にシンプルで、

「パンデミック期間中に転職を考えたことがあるか?」

という内容です。

巷の調査結果は数値が高めに出ているのではないかと考えていたのですが、弊社の調査でも約8割の方が転職を考えたことがあると回答しており、昨年と今年で人材マーケットの需給バランスが明らかに変化していることを感じます。弊社実施の調査という話を聞かれて、人材紹介会社の候補者だから転職希望率が高く出るのは当たり前だと思われたかもしれません。ですが、今回の調査対象者である弊社のタレントプールには、転職を何年もされておらず、現時点では今後もされる予定もない方や、現在のお仕事に満足されており転職には前向きではないという方なども含まれます。もちろん、転職を考える気持ちの強さは人それぞれですが、何かのきっかけさえあれば、転職してしまう可能性がある方が8割。

10名のオフィスであれば、8名。
50名のオフィスであれば、40名。
100名のオフィスであれば80名。

こう考えると驚くべき数値です。オフィスですれ違う方のほとんどが、頭のどこかに転職を思い描いていると考えると、雇用主やHR担当者の方にとっては、気が気ではありません。転職希望者の全てが転職をされていく訳ではありませんので、ご参考までのデータではありますが、転職を考えるきっかけについても回答を頂いております。今回のアンケートにご協力頂いた方は150名を超えており、それぞれのご意見を纏めて列記していくと、非常に長いリストになると考えていたのですが、現実はそうではありませんでした。雇用主に対しての要求レベルに強弱は確実に存在するのですが、求職者が企業に求める内容については、そこまで幅がないことが判明しました。

転職機会を探し始めたきっかけについて
  1. 新たな業種や職種への挑戦の為
  2. 同業種、職種でキャリアップをしたい
  3. より良い給与やベネフィット(在宅勤務、勤務時間、医療保険など)の為
  4. ご家庭の事情などによる引越しの為
  5. 現在の会社への不満(新型コロナ対策の不備・在宅勤務ができない・従業員が減り、忙しくなったなど)
  6. コロナ禍で企業業績が悪化し、転職せざるをえない

アンケート結果から、お仕事に対しての価値観がパンデミック期間中に変化した方も多く、特に在宅勤務制度の有無は大きな関心事になっているようです。1や2の理由については、在宅勤務の導入で必ずしも対応できることではありませんが、3、4、5の理由については大きく影響してくると言えそうです。給与やベネフィット全般に対しての回答は在宅勤務と一見、関係のないようにも思えますが、在宅勤務ができるのであれば、給与が少し安かったり、ベネフィットの内容が少し悪くなったとしても転職したい、または、現在のお仕事を続けたいというご意見があり、在宅勤務制度の有無は大きな判断材料になっているようです。
また、その他にもこのような調査を実施しました。

転職先(転職希望先も含む)にあって、現在勤務の企業にないものは?
  1. フレキシビリティ(勤務時間や在宅勤務のチョイス)
  2. より良い給与やベネフィット
  3. ワークライフバランス
  4. キャリアアップの機会
  5. 興味ある分野での業務経験が積める
(実際に転職された方のみへのご質問)転職前に持っていたイメージと転職先の実際の環境の違いはありますか?
  1. 特になくイメージ通り
  2. ワークライフバランスやメンタルヘルスへの好影響が想像以上にあった
  3. 思っていたよりも良いベネフィットを提供してもらっている
  4. 思っていたよりも仕事にワクワク感を感じない
  5. 業務量や勤務時間が長くなった
(実際には転職されなかった方へ)なぜ転職されなかったのか?

A. 転職する気持ちはあったが、現在の勤務先よりも良い給与やベネフィットではない為
B. コロナ禍で転職希望先の先行きがどうなるか不安だった為
C. 在宅勤務を許可してくれていた為
D. 転職の話をしたら、現在勤務している企業が給与を上げてくれた為
E. 転職ではなく、学生に戻る決意をした

これらの結果から読み取れることとして、従業員の転職を防ぐ為に大事な要素は

➀社内でのキャリアアップ制度の構築や、従業員が興味ある分野で業務経験を積むことができる勤務制度の構築
➁より良い給与やベネフィットの提供(在宅勤務、時短勤務、医療保険など)
➂一部の従業員に過度な業務負担がかからないような適切な人員配置

などが挙げられそうです。

各雇用主で企業規模や予算、既存の評価制度などが異なるために、全てを対応することはできないかもしれません。ですが、会社としてどこまで従業員の流出を許容できるかを見極め、従業員がある程度納得できる仕組み作りに注力しなければならない時期がまだまだ続きそうです。

Maho Inaba
Maho Inaba 人事・人材サービス部門ディレクター