ニューヨーク州では、2026年9月9日、従業員の人事記録(Personnel Records)へのアクセスに関する新しい法律が成立しました。
この法律により、従業員・元従業員には、自身のPersonnel Recordsのコピーを請求する権利などが認められるほか、雇用主には、一定の不利益情報を記録した場合の通知、記録の保存、従業員からの反論文への対応など、新たな義務が課されます。
新法は 2026年11月8日から施行予定です。ニューヨーク州で従業員を雇用している企業は、施行日前に人事記録の管理方法や社内手順を確認しておくことが重要です。新法はNew York Labor Law §210-bとして追加されます。
重要な期限・ポイント
| 5営業日以内 書面によるコピー請求への対応 | 10日以内 不利益情報を記録した場合の従業員への通知 |
| 原則 年2回まで Personnel Recordを閲覧する機会 | 退職後3年間 対象となるPersonnel Recordsの最低保存期間 |
1.どの企業が対象になりますか?
新法は、ニューヨーク州の民間・公共部門の雇用主を広く対象としており、従業員数による最低人数の要件は設けられていません。
そのため、小規模な企業であっても注意が必要です。
また、本社やオフィスがニューヨーク州外にある場合でも、ニューヨーク州内で勤務する従業員を雇用している企業は、この法律への対応が必要となる可能性があります。 法案説明ではニューヨーク州内のworksitesにおける従業員の権利として説明されています。したがって、ニューヨーク州にオフィスを持たず、州内でリモート勤務する従業員のみを雇用している企業についても、適用を前提として準備することをお勧めします。
2.何が大きく変わるのでしょうか?
これまでは、ニューヨーク州の民間企業の一般従業員について、自分のPersonnel Fileを閲覧・取得する包括的な州法上の権利はありませんでした。
新法により、主に次のような権利と義務が新たに設けられます。
① 従業員は自分のPersonnel Recordのコピーを請求できます
現在の従業員だけでなく、元従業員(former employees)も対象です。
従業員または元従業員から書面でコピーの請求を受けた場合、雇用主は、請求から5営業日以内に、無料でPersonnel Recordのコピーを提供しなければなりません。
そのため、「依頼を受けてから担当者を探す」という運用では間に合わない可能性があります。誰が請求を受け取り、誰が記録を集め、誰が内容を確認して回答するかを事前に決めておくことが重要です。
また、従業員には、原則として 暦年に2回までPersonnel Recordを閲覧する機会 が認められています。不利益情報がPersonnel Recordに追加されたことに伴う閲覧は、この年2回の回数には含まれません。
② 「Personnel Record」の範囲は比較的広く定義されています
Personnel Recordは、単に会社が「Personnel File」という名称のフォルダに保管している書類だけではありません。
従業員について、次のような判断に使用された、または使用される可能性のある記録が対象となります。
- 雇用資格
- 昇進
- 異動
- 給与・追加報酬
- 懲戒処分
具体例として、法律では、氏名・住所・生年月日などの基本情報、役職名・職務記述書(Job Description)、給与・報酬、入社日、応募書類・履歴書、人事評価、業績不良に関する書面による警告、試用期間に関する記録、従業員が署名した権利放棄書、日付入りの退職・解雇通知、懲戒処分に関する文書などが挙げられています。
さらに、給与計算会社、PEO(給与・福利厚生などの人事業務を外部で管理するProfessional Employer Organization)、人事システムなど、雇用主との契約に基づき第三者が保管している対象記録も含まれる可能性があります。
なお、他の従業員など第三者の個人情報で、開示すると明らかに不当なプライバシー侵害となるものは、Personnel Recordの対象から除外されます。
3.特に重要:不利益となる情報を記録した場合の「10日以内」の通知義務
今回の法改正で、Personnel Recordへのアクセス権と同じくらい重要なのが、この新しい通知義務です。
雇用主が従業員のPersonnel Recordに、従業員の雇用資格、昇進、異動、追加報酬、懲戒処分の可能性に 不利益を与える、または与える可能性のある情報 を追加した場合、その情報を記録してから10日以内に従業員へ通知する必要があります。
たとえば、業績に関する警告書、書面による警告、否定的な人事評価、懲戒に関する記録などが該当する可能性があります。
したがって、この法律は人事担当者だけの問題ではありません。
管理職による従業員記録の管理ルールを確認する
新法では、Personnel Recordは、人事担当者が管理する正式なPersonnel Fileに保存されている文書だけに限定されません。
管理職が自身の管理目的で保管している勤務評価に関するメモ、メール、懲戒に関するメモその他の記録であっても、その情報が人事評価、昇進、給与・ボーナス、異動、懲戒処分などの判断に使用される、または使用される可能性がある場合には、Personnel Recordとして扱われる可能性があります。正式なPersonnel Fileとは別の場所に保存されていても、内容によっては10日以内の通知義務の対象となる可能性があります。
そのため、管理職が「これは自分だけが使用する個人的なファイルなので、Personnel Fileとは関係がない」と考え、部下の業績や勤務態度に関する記録を独自に蓄積する運用には注意が必要です。
会社としては、管理職が従業員の業績や勤務態度に関する独自のファイルを継続的に作成・保管することを原則として避け、 将来の人事判断に使用する可能性のある記録については、人事担当者または会社が指定する正式な記録管理プロセスを通じて管理することをお勧めします。
たとえば、管理職が業績上の問題や勤務態度上の問題について記録を作成する必要がある場合には、独自の「Manager File」に保存するのではなく、人事担当者へ共有し、次の点を確認できるプロセスを設けておくことが望まれます。
- Personnel Recordとして保存すべき情報か
- 従業員に不利益となる情報が含まれているか
- 10日以内の通知が必要か
- 従業員本人にどのように通知・共有するか
管理職が業務上の必要から正式なPersonnel Fileに保存されている文書を参照・保持する場合でも、その文書に独自の評価やコメントを追加しないよう注意が必要です。新たに追加された情報が、昇進、報酬、異動、懲戒等に不利益に使用される可能性がある場合には、その追加情報について10日以内の通知義務が生じる可能性があります。
新法への対応として、管理職に対して、少なくとも次の点を周知しておくことをお勧めします。
- 「正式なPersonnel Fileに入っていなければPersonnel Recordではない」と考えないこと
- 部下の業績や勤務態度について独自の継続的なファイルを作成しないこと
- 将来の人事評価、昇進、報酬、異動、懲戒等に使用する可能性のある情報を記録した場合は、人事担当者へ共有すること
- 業績に関するメールやメモについても、保存場所にかかわらずPersonnel Recordとなる可能性があること
- 不利益情報を記録した場合には従業員への通知が必要になる可能性があるため、管理職だけで判断せず人事担当者へ相談すること
このように、管理職による記録・文書化のルールを明確にしておくことが、新法への対応上重要となります。
すべての文書追加が10日以内の通知対象になるわけではありません
Personnel Recordに新しい文書を追加するたびに通知が必要になるわけではありません。
たとえば、通常のJob Descriptionの改訂、住所や連絡先の変更、通常の給与改定など、従業員に不利益を与える性質を持たない情報の追加については、この10日以内の通知義務は通常発生しません。
ただし、同じ種類の文書でも、その内容や使用目的によっては通知対象となる場合があります。たとえば、降格に伴ってJob Descriptionが変更され、その文書が降格という不利益な雇用上の決定を反映するものである場合には、通知対象となる可能性があります。
人事評価(Performance Review)については特に注意が必要です
新法では、人事評価(Performance Evaluation)は明示的にPersonnel Recordに含まれるとされています。
そのため、人事評価全体の総合評価が良好であっても、評価書の一部に、将来の昇進、給与・ボーナス、異動または懲戒等に不利益に使用される可能性のある具体的な業績上の問題が記載されている場合、その情報について10日以内の通知義務が発生する可能性があります。
たとえば、総合評価が「Good」であっても、次のような記載が含まれ、それが将来の人事判断に使用される可能性がある場合は、単に総合評価が良好であることだけを理由に通知不要とは判断しない方がよいでしょう。
- 継続的に期限を守れていない
- 重要な業務について期待される業績水準を満たしていない
- 同じ問題について繰り返し指導を受けている
- 改善がなければ昇進や給与改定に影響する
- 改善がなければ懲戒処分につながる可能性がある
一方で、通常の人事評価には、従業員の成長を目的とした改善提案や今後の目標も含まれます。たとえば、プレゼンテーション能力をさらに伸ばすことを推奨する、リーダーシップ能力の向上を次年度の育成目標とする、特定分野の経験を増やすことを推奨する、といった通常の育成上のフィードバックについて、それ自体が昇進、報酬、懲戒等に不利益に使用される性質のものでなければ、単に「改善点が記載されている」という理由だけで10日通知の対象になるとは限りません。
したがって、判断のポイントは、「否定的な表現が含まれているか」ではなく、その情報が将来の雇用上の判断に不利益に使用される、または使用される可能性があるかです。
なお、人事評価を文書で従業員本人と共有し、評価面談の際に本人へ提示またはコピーを提供している場合には、従業員はその内容をすでに知らされていることになります。ただし、新法は現時点では通知方法を具体的に定めていません。そのため、人事評価を本人に提示または送付した場合には、その日付を記録しておくことをお勧めします。
また、法律上の「不利益情報」の範囲については明確な定義がなく、州から詳細なガイダンスもまだ出ていません。そのため、特に施行当初は、将来の人事判断に実際に使用され得る業績上の問題を文書化した場合には、通知対象として慎重に取り扱うことをお勧めします。
4.従業員が記録の内容に同意しない場合
従業員がPersonnel Recordに記載された内容に同意しない場合、雇用主と従業員は、その情報を修正または削除することについて合意することができます。
合意できない場合、従業員には、自分の立場を説明する書面(written statement / rebuttal)を提出する権利があります。
この書面はPersonnel Recordの一部として保存しなければなりません。
さらに、後にその争われている情報を第三者へ提供する場合、原則として 従業員の反論書面も一緒に提供する必要があります。
そのため、人事評価や懲戒に関する記録については、事実関係を正確かつ客観的に記録することが、これまで以上に重要になります。
5.Personnel Recordsは退職後も保存する必要があります
新法では、対象となるPersonnel Recordsを、雇用開始時から退職後3年間まで保存することが求められます。
ただし、給与記録などについて他の連邦法・州法・地方の法令がさらに長い保存期間を定めている場合には、そちらの保存期間に従う必要があります。
したがって、「Personnel Recordsはすべて3年経過後に廃棄してよい」という意味ではありません。
6.医療情報はPersonnel Fileと分けて管理してください
今回の新法によりPersonnel Recordsへのアクセス権が拡大されますが、従業員の医療情報や合理的配慮(reasonable accommodation)に関する情報を通常のPersonnel Fileに入れてよいという意味ではありません。
ADAその他の適用される連邦・州・地方の法令に基づき、従業員の医療情報や合理的配慮に関する情報は機密情報として取り扱い、一般のPersonnel Fileとは分離して管理することが必要となります。
既存のファイル管理方法についても、この機会に確認することをお勧めします。
7.従業員からの請求や権利行使を理由とする報復は禁止されます
従業員がPersonnel Recordを請求したことや、新法上の権利を行使したことを理由として、解雇、不利益処分、脅迫、差別その他の報復(retaliation)を行うことは禁止されます。
法律違反については、$500以上$2,500以下の罰金が定められており、New York Attorney General(ニューヨーク州司法長官)が執行権限を持ちます。
8.雇用主が2026年11月8日までに行っておきたいこと
新法への対応として、少なくとも以下を確認することをお勧めします。
1. Personnel Recordsがどこに保管されているか確認する
人事システムだけでなく、給与計算システム、PEO、その他外部ベンダーが保有する記録も含めて確認します。また、管理職が部下に関する独自の記録を保有していないかも確認します。
2. Personnel Recordの請求への対応手順を決める
書面による請求を誰が受領し、誰が記録を収集・確認し、5営業日以内に回答するのかを決めておきます。
3. 不利益情報の10日以内通知プロセスを設ける
書面による警告や懲戒に関する記録などがPersonnel Recordに追加された場合に、人事担当者・指定担当者が把握できる仕組みを作ります。
4. 管理職による従業員記録の管理ルールを整備する
管理職が部下の業績や勤務態度に関する独自のファイルを継続的に作成・保管することは原則として避け、将来の人事判断に使用する可能性のある記録については、人事担当者または会社が指定する正式な記録管理プロセスを通じて管理するルールを設けます。
5. 記録保存のルールを確認する
Personnel Recordsについて、少なくとも退職後3年間保存できる仕組みになっているか確認します。
6. 医療・機密記録が分離されているか確認する
医療情報や合理的配慮に関する記録を通常のPersonnel Fileとは分けて管理します。
7. Employee HandbookおよびPersonnel Records Policyを確認する
現在のポリシーが新しいアクセス権と矛盾していないか確認し、必要に応じて改定します。
9.Employee Handbookの改定ポイント
今回の新法を踏まえ、Employee HandbookにPersonnel Files / Personnel Recordsに関するポリシーがある企業は内容の見直しをお勧めします。
また、現在そのようなポリシーがない企業については、Personnel Recordsへのアクセスに関するポリシーの新設を検討することが望まれます。
Handbookに記載する内容としては、主に次の事項が考えられます。
(1) 従業員がPersonnel Recordへのアクセスを請求できること
従業員が、自身のPersonnel Recordについて書面でコピーを請求できることを明記します。具体的な請求先を人事担当者や指定された社内窓口として明確にしておくと、請求が管理職等で止まってしまうリスクを減らせます。
(2) 法律に従って適時に対応すること
Handbookでは、必要に応じて「適用される法令に従ってPersonnel Recordを提供する」といった記載とし、詳細な社内処理については、別途、社内の人事運用ルールとして定める方法もあります。5営業日以内のコピー提供義務など、法律上の具体的な要件をHandbookに明記する場合には、今後の法改正時にHandbookも更新する必要がある点に注意します。
(3) 不利益情報についての通知
Personnel Recordに、法令上通知が必要となる不利益情報を追加した場合には、適用法令に従って従業員へ通知することをポリシーに反映することを検討します。10日以内の通知期限や具体的な社内処理方法については、Handbookではなく、別途、社内の人事運用ルールとして定める方法もあります。
(4) Personnel Fileと医療・機密ファイルを区別すること
HandbookにPersonnel and Medical Recordsをまとめて規定する場合でも、医療情報は機密情報として通常のPersonnel Fileとは別に管理されることを明確にしておくことをお勧めします。
(5) 報復禁止(Non-Retaliation)
Personnel Recordへのアクセスを請求したこと、記録の内容について異議を申し立てたことなどを理由として報復を行わないことを明記することをお勧めします。報復禁止についての記載が含まれていない場合は、追加を検討してください。
10.今後の法改正について
ニューヨーク州知事は、この法律には一部不明確な点が残っていることを認識したうえで署名しており、州議会との合意に基づき、2027年の州議会でこれらの点を修正・明確化する追加法案が予定されています。
予定されている修正内容には、雇用主が新たなPersonnel Fileや文書を作成する義務までは負わないことや、対象となるPersonnel Recordsの範囲をより明確にすることなどが含まれています。
ただし、現在成立している法律は2026年11月8日に施行予定です。
したがって、2027年の修正を待つのではなく、11月8日の施行にあわせて現行法に基づきポリシーの改訂や管理職の教育等を行った上で、来年修正法が施行された際に再度ポリシーの改訂が必要かどうかを確認し、適切なご対応を行われることをお勧めします。
参考法令: New York Labor Law §210-b / S.3460, Chapter 293 of the Laws of 2026
成立日: September 9, 2026
施行予定日: November 8, 2026
| 本資料は、2026年9月21日現在の法令および公表情報に基づく一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件についての法的助言を提供するものではありません。企業ごとの状況や従業員の勤務場所等によって適用関係が異なる可能性があります。 |
(本資料は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。)
ご不明点やサポートが必要な場合は、お気軽に弊社までお問い合わせ下さい。
ご相談は下記のフォームに必要事項を入力の上、Submitボタンを押してください。
フォームより送信できない場合はお問い合わせよりメールにてご連絡ください。担当より折り返しご連絡させていただきます。
Disclaimer:
Please note that Actus Consulting Group, Inc. strives to provide accurate, practical, and ethical information on Human Resources management, employment, workplace matters, and insurance through emails, blogs, seminars, videos, and other materials. However, Actus Consulting Group, Inc. is not a law firm, and the content presented in emails, blogs, seminars, videos, and other materials should not be interpreted as legal advice. If you require legal guidance, always seek legal counsel. The information provided is for general informational purposes only and should never be considered a substitute for legal advice. We disclaim any liability for damages resulting from the use of this information.

